こんにちは。少年自然の家です。
間もなく始まる新年度を前に、今日は午後からスタッフ全員で野外炊事場にでかけ、炊事道具一式を収納してあるコンテナをきれいにする作業を行いました。
最初は「天気になってよかったよね。」などと話しながら和気あいあいと取り組んでいたのですが、それもつかの間、次第に雲行きが怪しくなり、最後には山の上から冷たい強風が絶え間なく吹き付ける過酷な状態の中、それぞれが無口で黙々と体を動かす状態になりました。
それでも冷え切った体を鞭打ち、何とか各自が担当した仕事を終えて、ぼちぼち終わりに近づいてきたかなとほっとしたころ、かまどの前で地面にへばりつくようにして鉄板を拭いているスタッフの姿が目に入りました。コンコンです。
一気にたくさん焼きそばを焼くことができる、重くて大きい鉄板が約30枚。1枚1枚丁寧に洗い、サビを落とし、拭き上げ・・・ と格闘しているうちにへとへとになってしまったようで、「できれば仕上げの油塗りにお力をお借りできれば・・・。」と遠慮がちに申し出る彼の姿を見て、ノブの心に火が付きました。
「てやんでい、べらぼうめ!こちとら江戸っ子だい、花粉症だい!それしきの鉄板、おいらに任せておくんねいっ!」とにわかに勢い込んで、寒さで垂れた鼻水を拳でぐいっとこすり上げました。
たしかノブは三重県内の出身だったはずだがなあ、と思いながら、にわか江戸っ子と化した彼の姿を眺めて首を傾げつつ、私どんべえも地面に並べられた鉄板の水滴をぬぐってノブに手渡す役を引き受けることになりました。
「おうっ!どんべえ!てめえたらたらたらたら動いてんじゃねえよこっちの調子がくるっちまわぁ!そこいらの鉄板にまとめて油をぶちまけて早くこっちに回しておくんねいっ!」
恐らく東京の大学に在学中覚えたとみられる江戸弁を威勢よくまくしたてながら手足を振り回し、振り回すごとに彼の顔や体は次第にサラダ油まみれになってゆくのですが、すでに寒さで色んな感覚がマヒしている「江戸っ子」のノブにはそんなことはもはやどうでもいいようでした。
その後も江戸弁とサラダ油の嵐を巻き起こしながらノブの鉄板みがきは続きました。そして彼から発せられる「もんじゃ焼き」「江戸前」「てやんでい」「佃煮」「向島」「べらぼうめ」という絶叫に近い言葉と、手足を振り回し髪を振り乱す鬼神のようなはたらきのおかげで、あれほどたくさんあった鉄板も次々と光沢を取り戻し、コンコンの手でいそいそと倉庫へと運ばれてゆきました。
やがて最後の1枚を拭き上げたノブは、自らの手でその鉄板を倉庫まで運び、何度も頭を下げるコンコンの肩を力強く叩いて、「困ったことがあったら何でもおいらに任せな。そいじゃあ、縁と命があったらまた会おうぜ。達者で暮らせよ。あばよ。」と言い残し、肩で風を切って去ってゆきました。
その後姿を「お前だれやねん」とつぶやきながら見送るコンコンとどんべえでした。
【どんべえ】